2022.06.04 UPDATE
TALK SPOT 98
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フクモリ シン

「先人の成せしところを真似ず、思いしところを真似よ」
〜まだないもの、失ったもの、を見つめ直して〜

時代が変わる中、私たちの暮らしや福祉の仕事の内容も変わってきた。福祉は人なり。施設の目的は変わらずとも、人によって内容と質と量は変化するもの。但し精神性はより高いところを目指すべし。先人たちがこれまでしたこととその内容は変化してきた。何をするにしてもその先人たちの“成せしところ”は変わりながらも“思いしところ”の上にあるということを念頭に置かなければならない。創設者の思いは「己の欲せざるところ、人に施すことなかれ」(孔子)であった。また、厳しい薩摩藩の郷中教育についてもよく話していたように記憶している。その教えにある「(自分に)負けるな、嘘をつくな、弱いものをいじめるな」という言葉は、シンプルながらも今の時代にこそ必要なエッセンスが含まれているようだ。このような先人の“思いしところ”を受け継ぎながら、新しい運営の方向性について述べてみたい。

新しい組織体制の大きな柱は、あえて法人組織の各事業所グループを独立して機能させ、運営していくという手法によって、個人の創造性を発揮する仕組みを構築することである。各事業所が何らかの目標を達成するための小さな計画実行を積み重ねながら、「幸福」という大きな目標を法人全体という集団で目指していくものである。つまり、各事業所にあるいはスタッフに、今後は権限と責任を与え運営を委ねて、事業所自らが考え新しいシステムを創り上げていくスタイルへ運営の先を向けなければならない。難しいのは、システムよりやはり人間。どんな価値を生み出そうとしているのか?その意義や理想は、プロジェクトを率いる人の問題意識こそがプロジェクトを作る動機になるのだ。「どうしたいのか」これがビジョン(構想)である。そこにコンセプト、つまり基本的な意図、目的や価値観イメージが存在する。理念に沿ったビジョンを設定し、アイディアを出し、自分たちで考え(アイディア創出)、実行して、責任をとる。私たちはどこへ向かっているのか。自分たちで向かう「幸福」の方向を明確にしていくために、方向性を共有したリーダーとスタッフが共に何をすればいいのかを考えながら、個性的で素朴な豊かさを持つ施設を目指していきたいと考えている。

集約すると、リーダーシップによる危機管理やガバナンス、コンプライアンスが基盤にあることもその条件でありながらも、これまでの専制型(指示型)であった法人運営のあり方を民主型に改革することである。すでに年功序列のシステムではない。大切なことは、スタッフが良い意味で相互に頼り、率直な意見を交換し合う土壌をつくり、“考えながら働く人”を育てること。また、スタッフを経営のパートナーと位置付け、運営する一員という感覚が持てるように個人の意見をよく聞き、一緒に創意工夫をしながら、「シナジー」(相乗効果)が発揮される環境の構築である。

求めているのは、世間のスピードに左右されず、競争や一時的な流行的な事例による“まね”ではなく、スタッフ自身の自分たちの純粋な美意識と良心感の中から「まだないもの」あるいは「失ったもの」を見つけていくような直感的な感覚である。その実現に向けて、何をどのようにしていくのかを各事業所グループが協力しながら考え、“良いチーム”を作ること。繰り返しになるが、やはりお互いが感謝し合える関係でありたいと思う。我々が到達したい地点は、組織の一員としての誇りが持てるような“人々を包み込む力をみんなで創り出すこと”である。それは、組織にとってもスタッフ個人にとっても、そのプロセスはとても意義のあることだ。

福祉の仕事は、誰のための幸福論か。一言で言うとすれば「世のため人のため、ひいては自分のため」とでも言いかえられようか。社会福祉法人のミッションは、特定者や限られた集団の利益に奉仕するものではなく、みんなの利益のために活動するものである。新型コロナウイルス流行による恐怖と不安、大きな災害に見舞われた地域の人々の悲しみのこと、世界各地で起きている衝突や戦争のこと。私たちにできることは一体何か?インクルージョンの「孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、健康的で文化的な生活の実現につなげるよう、地域住民の一人として包み支え合う」という理念に共感し、私たちは、今後社会や地域そして自分たちのために何をしていくのか、話し合っていきたい。

たくさんの小さな人々が

たくさんの小さな場所で

たくさんの小さなことを成す。

それで世界の状況は変えられる

Many small people in many small places, do many small things,

that can alter the face of the world.

「アフリカ原住民の諺」

季刊誌104号『TALK SPOT』ページより掲載(季刊誌購読方法はこちらへ

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「先人の成せしところを真似ず、思いしところを真似よ」
〜まだないもの、失ったもの、を見つめ直して〜
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